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<アルテピリンC> の抗癌作用
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木本哲夫 |
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- 林原物理学研究所参与 |
- 川崎医科大学名誉教授 |
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近年、西洋医学の行き詰まりが指摘されるのに呼応して東洋医学や民間療法への期待が高まり、それとともに民間伝承薬としてヨーロッパで古い歴史を持ってきたプロポリスが、いま、強い関心を持って迎えられています。 |
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プロポリスからすでにいくつもの生理活性物質が発見、報告されており、私たちもこれまでにマクロファージ活性や殺菌作用についての研究成果を明らかにしてきましたが、今回その抗腫瘍効果に焦点を絞って検討を重ねた結果、「アルテピリンC (Artepillin-C )」単離に成功し、この物質にマクロファージ活性賦活作用、抗菌作用のほか、各種の培養腫瘍細胞やマウスに移植した固形癌に対する優れた殺細胞効果があることを確認しました。 |
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実験に用いたアルテピリンC は、ブラジル産プロポリスのエタノール抽出物から得られたもので、化学式と構造式は別掲の通りです(図1)。 |
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これは水に溶性のため、当初はこれをエタノールに溶かし培養液に添加したものをつかいましたが、その後、水溶性のものを得る方法も開発して利用しています。 |
1.培養腫瘍細胞に対する増殖抑制効果
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まず、基礎実験として、培養した癌細胞に アルテピリンC を添加し、その作用を検討しました。
用いた癌細胞は、 @ ヒト由来悪性 腫傷 細胞 ( 肺癌、胃癌、肝細胞癌など 6 種 ) 、 A ヒト由来白血病細胞および悪性リンパ腫 ( リンパ性白血病、骨髄性白血病、単球性白血病など 4 種 ) 、 B ラット由来細胞 ( 肝細胞癌 ) 、 C マウス由来細胞 ( 結腸癌、悪性黒色腫、繊維芽腫など 3 種)、D正常細胞(マウス由来繊維芽細胞)です。
その結果、ほとんど上記全ての腫瘍細胞に対して、10〜100μ g/ mlの濃度で顕著な増殖 抑制を示し(図2、写真1)、ほとんどに癌細胞は、 アルテピリンC 添加後3〜4日で死滅したのです。 |
図2 : 培養腫傷細胞に及ぼすアルテピリンCの抑制結果 |
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写真1:アルテピリンC処理による癌細胞の増殖抑制:
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a) ヒト由来肺癌細胞 無処理24時間 |
b) ヒト由来肺癌細胞 アルテピリンC 100μg |
24時間処理。 著しい細胞傷害 |
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c) ヒト由来胃癌細胞 無処理24時間 |
d) ヒト由来胃癌細胞 アルテピリンC 100μg |
24時間処理。 著名な癌細胞の壊死 |
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ただし、仮に殺細胞効果が 顕著であっても、それによって正常細胞にまで深刻な損傷を与えてしまっては、実際に生体に用いることはできません。そこで正常細胞への影響と比較実験を行い、細胞周期の短いものほど殺細胞効果が高いという結果を得ています。 |
正常細胞に比して、突然変異を起こした癌細胞は非常に速く、且つ無制限に増殖するところに得徴がありますが、 アルテピリンC はこのように短時間に分裂を繰り返すものを選択的に殺傷(狙い撃ち)します。この理由の解明のために細胞分裂時に出現する DNA の合成に及ぼす影響を測定したところ、増殖著明な腸 瘍細胞ほど、その DNA 合成が阻害されていることが証明されました。
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例えば、ヒト由来白血病細胞の DNA 合成阻害は100μg/ml の濃度で 顕著に見られ、またマウス黒色細胞腫でも阻害は非常に 顕著 でしたが、正常の 由来位繊維芽細胞の場合や、老化細胞や DNA 合成停止状態のものへの DNA 阻害は軽度でした。 |
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この事実は、癌細胞に比べて増殖の速度が緩やかな正常細胞に対しては、 アルテピリンC は軽度に害を与え(培養細胞の場合)、進行が早く移転しやすい悪性癌ほど、 抑制効果を示す可能性を物語っています。 |
2.マウスによる癌増殖抑制実験
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以上の実験管内での実験に並行して、癌細胞を移植した成熟マウスによる実験を行いました。移植に用いたのは、ヒト由来の肺癌・胃癌・肝細胞癌、マウス由来の結腸癌、ラット由来の肝細胞癌です。 |
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癌細胞を移植したマウスのうち、一群はそのままとして、別の一群にはアルテピリンC を一日おきに500μ g ずつ注射して、
経過を観際しました。その結果の一例を写真で示します(写真2〜5)。 |
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これはヒト由来の肺癌細胞を移植したマウスですが、何もしなかったものは癌細胞が瘤のように増殖したのに対し、アルテピリンC を注射した方では、腫瘍が大きくなった途中からアルテピリンC を注射し始めたもでは、腫瘍は小腫瘤に分離して増大は見られません(写真2、3)
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写真3: この腫瘍へアルテピリンCを注射、 |
腫瘍は増大を停止 |
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また、腫瘍が大きくなった途中からアルテピリンCを注射し始めたものでは、やがて腫瘍が壊死して脱落しました(写真4、5)。 |
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写真4: 大きくなった腫瘍へアルテピリンCを注射、 |
写真5: この腫?はやがて脱落し、 |
大部分が壊死に陥った (黒色部分) |
跡がカサブタ状になった |
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解剖 結果、いずれの 腫瘍 細胞でも、 アルテピリンC の投与によって、細胞核の融解・濃縮といった変性 ( 写真 6) 、核の断片化 ( 写真 7) 、小集団の自然死 ( 写真 8) 広範な大集団の凝固壊死 ( ネクローシス )( 写真 9) などを招いて、はっきりした癌細胞の増殖 抑制効果を示しています。
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写真6: 核の膨化と融解
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写真7: 核の断片化 |
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写真8: 小集団の自然死 |
写真9: 大集団の各断片化と凝固壊死 |
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3.損傷部の修復現象 |
ここでもう一つ注目すべきことは、長期 アルテピリンC 注射群では、壊死した癌細胞の周囲にリンパ球が浸潤し、さらに間質のコラーゲンが封じ込める形で取り巻いて、癌による損傷 部の修復(創傷治癒)が進んできているところです(写真10、11)。
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写真10: コラーゲンが増殖し、癌細胞を封じ込める (孤島化した癌巣。 *印) |
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写真11: マクローファジ、リンパ球の増殖によりコラーゲン増殖が促進 (写真10の ↓印の部分の拡大) |
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この事実は、 アルテピリンC の役与によってコラーゲン増殖が促進され、癌を孤島化するとともにその増殖を停止させて、その結果として、生体を長期間にわたり癌と共存させ得たことを示しているのです。 |
このように アルテピリンC が癌細胞を選択的に死滅させ、しかも副作用がなく、加えて免疫活性の亢進、癌細胞の封じ込め、損傷部の修復といった多くの抗癌作用が確認できたことを受けて、私たちがさらに綿密多角的に研究開発を継続中です。
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木本哲夫 (きもと てつお) |
昭和二十年、岡山医科大学専門部卒業。 |
昭和二十九年、医学博士。 同大学副手を経て、 |
昭和三十三年、 同大学医学部講師。 |
昭和三十七〜四十年、 米国(ニューヨーク州立ローズウェルパーク記念研究所)留学。 |
帰国の年、同大学医学部助教授となる。 |
昭和四十七年、川崎医科大学教授。 |
昭和五十一年、 同大学免疫組織培養センター長。 |
平成二年、同大学名誉教授となり、川崎医療短期大学教授、川崎医療福祉大学教授を歴任。 |
平成七年、蒲ム原生物化学研究所参与となり現在に至る。 |
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ソース: |
プロポリス健康読本1 − シリーズ健康の科学No3 − ページ45〜48 − 東洋医学舎 − 印刷12月1日2001年 − より抜粋 |